セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ / 誰もが嘘をついている ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性

 めちゃくちゃな希死念慮に襲われるたびにGoogleの検索ボックスに「死にたい」と意味もなく打ち込み、検索結果のページを眺めては溜息をつくということを繰り返していたことがあるのだが、ある時期を境にして検索結果に「こころの健康相談統一ダイヤル」なる電話番号が表示されるようになり、へえみんなけっこう死にたいって検索してんだなあ、と思ったことがある。

 そのとき「死にたい」と意味もなく検索ボックスに入力した僕たちは「死にたい」という心情を図らずも"自白"してしまったわけだが、Googleはどんな検索履歴もデータとして一言一句たりとも漏らさずに収集している。本書はそうした膨大なビッグデータから、社会についていかなることがわかるのか、ということを明らかにしていく。

 これまでのような対面での調査では、調査員の目を気にしてしまったりするなどの要因から「社会的望ましさのバイアス」が働き、自分の本来的な考えではなく、社会的に受け容れられやすい回答をしてしまう傾向があるのだという。

 先ほどの例で言えば、大切な誰かに「死にたいって思ってるの?」と聞かれても「いや、そんなことないよ」と言ってしまうようなものだろう。心の中は希死念慮で溢れているのにも関わらず。それでも僕らはGoogleには「死にたい」という心情を吐露しているわけで、どちらがより本心に近いのかと言えば、それは言葉に出した「そんなことないよ」よりも、Googleに吐き出した「死にたい」の方だったろう。

 ビッグデータであればそうした「社会的望ましさのバイアス」に囚われることなく、人々の本心を知ることができる。統計から漏れてしまったものをすくいあげることができる。それがおおむね本書の主張するところであろう。ーーいや、正確に言えば細部は違うのだが、要は対面では他人の視線がバイアスになるってことで、まあそれはそれでいいだろう。

 個人的に印象に残ったのはポーンハブ(Pornhub。Googleの検索結果以外にも、Pornhubのようなポルノサイトのビッグデータをも用いるところも面白い)の検索結果が、フロイトオイディプス・コンプレックス的な主題を示唆しているという部分。詳しくは書かないがまさかフロイトとポーンハブの検索結果を結びつけるなんて予想だにしなかったので、スタバで他の客に怪しまれるくらいニコニコしながら読んでしまった。

 それ以外にもGoogleの検索結果からわかるトリビア(死語)みたいなものが満載の超面白い本である。ビッグデータ賛美だけでなく、ちゃんと臨界点にも触れている。いささか冗長な部分がないではないけれども、こんなに楽しい本にはなかなか巡り会えない。

(2018年 光文社 ★★★★★)