マーク・ダグラス / ゾーン 相場心理学入門

 僕自身はトレーダーではないし、それに類する投資も全くやらない。もしかするとこの先いつか手を出すこともあるかのかもしれないが、今のところその予定はない。にも関わらずこの本を読んだのは、単純な知的興味からである。

 ほとんど知識がなくファンダメンタル分析だのテクニカル分析だの言われてもサッパリわからないのでGoogleで検索したりして読んだが、実際のところはそれも最初の導入の部分のみであり、中盤以降はそうした専門用語もほとんどなくスラスラ読んだ(最後の演習部分はかったるいので飛ばしたが)。

 結論から言えば、あまり想定の範囲を大きく超えない本ではあった。「相場心理学」と銘打ってはあるものの、実際には心理学的なエビデンスを引用してくるわけでもなく(むしろほとんどが喩え話)、トレーダーとして成功するための「姿勢」や「心構え」をひたすら述べており、心理学というよりは自己啓発や精神論に近い。

 要するに何を語っているのかといえば、この種のスピリチュアル本や自己啓発本において繰り返し語られてきたものとほぼ相似で、「世界」や「社会」や「人生」とかいうような大仰な主語を「市場(マーケット)」にそのまま置き換えたような内容である。

 市場の不確実性はいかなる分析を以てしても予測が困難なものであり、我々はその結果を粛々と受け容れることしかできない。過去・現在・未来という関係性において、過去は痛みに囚われやすく、未来は欲望・期待に絡め取られやすい。それらはどちらも認識によって生まれた思い込みに過ぎず、客観的な材料とはならない。であるとすれば、我々は現在、つまり「今ここ」において客観的な判断を行いつづけることで、トレードでの成功を勝ち取ることができるのだ。……とか、そういう感じのどこかで聞いたような内容が繰り返される。

 パンローリングは好きな出版社なのでけっこう読んでいる(『ザ・ゲーム』とか『抱けるナンパ術』とか、ああいうPUA本をアホみたいに読んでいた時期がある)せいもあってか、かなり既視感を覚える内容ではあったが、トレーダーがモチベーションを維持するために読む本としてはきっと良い本なのだろうと思う。この種の本は知的な理解ではなく、実践することで初めてその意義を持つということが往々にしてある。

 ただまあ、やっていない人間が言うのもあれではあるが、この本通りに行えばトレーダーとして成功できるかと言われたらまあ疑問ではあるし、そもそも成功したトレーダーがみんな「ゾーン」なる境地に達しているというのも本当か?という感じではある。まあ、そういう細かいことは抜きにして、トレードに対する情熱を保つために読む本だと思う。

(2002年 パンローリング ★★★☆☆)