鏡リュウジ / 占星術の文化誌

 現代の枠組みにおいて「オカルト」として退けられがちな占星術は、中世以前では一つの学問あるいは教養として科学と分かちがたく結びついていた。文学・美術・音楽・医術・心理学という諸分野において、それがどのような影響を与えてきたのかということについて書かれた一冊。

 タイトルの「文化誌」から予想はつくと思われるが、占いのテクニクスを学ぶハウツー本ではない。学術書というよりも占星術に関するアカデミックな筆致のエッセイ、というほうが感覚的には近い。

 個人的には冒頭の「占星術とメディア」と題する章がいちばん面白かった。本書によれば女性誌などで連載されているような形式の「星座占い」は1940年代の英国でもほとんどメジャーではなく、1960年代にリンダ・グッドマンの『太陽星座』のヒットによって爆発的に普及したとのことで、つまりここ50年くらいのムーブメントであるようだ。

 また、そうした「星座占い」の形成には近代占星術の父とも呼ばれるアラン・レオという人物が大きく寄与している。アラン・レオ以前の古典的な占星術では、「あなたはこういう性格です」というような性格診断的な描写はまだ少なく、あったとしても飾り気のないものに留まっており、著者の言葉をそのまま借りれば「占星術においては内面というものが存在していなかった」のだという。

 アラン・レオは神智学に傾倒しており、その中心教義としての秘教的な太陽崇拝を占星術に反映させた。占星術において太陽は他の惑星に対して取り立てて優位を持ってはいなかったが、アラン・レオは太陽にこそ本人の霊的アイデンティティが顕現していると考え、それまでは外面的な描写に留まっていた占星術に豊穣な性格描写を導入するようになった。そうした"内面の発見"が心理学化してゆく現代占星術を花開き、ひいては我々が日頃から目にするような「星座占い」に溶け込んでいるのだと著者は述べる。

(2017年 原書房 ★★★☆☆)