大塚英志 / 殺生と戦争の民俗学 柳田國男と千葉徳爾

 図書館でパラパラとめくりながら「殺生の快楽」という物騒な見出しが目に飛び込んできて、大塚英志にこの手の話を書かせたら面白いに決まってるよなと思いながら手に取った本。

 柳田國男の弟子たちの中でも最も「部外者」に近かった千葉徳爾(本書によれば大塚英志の師にあたる)が、柳田國男の「正統」な後継者としていかなる衣鉢を受け継ぎ、どのように自らの<戦争の民俗学>を構築していったかを、自らの学生時代のエピソードなども交えて述懐しながら論じた本。

 僕は高校生くらいの頃から大塚英志の本は折に触れ読んでいて、柳田國男の"衣鉢"が自ら内省する選挙民を教育するという「公民の民俗学」であることも読む前からなんとなく想像がついていたし、その他方で柳田國男が山人論に代表される「ロマン主義」的な想像力で揺れ動いていたというような話(エイゼンシュテインとかロシア・フォルマリズムとか貴種流離譚とか、大塚英志っぽい固有名詞もちょこちょこ出てくる)は過去の著書で把握している僕にはスッと入ってくるものの、これまでにそうしたものに触れたことのない読者がこれを面白いと思うかどうかは、ちょっとよくわからない。千葉徳爾という人物も柳田研究者のあいだでは常識に属するのかもしれないが、一般的には非常にマニアックな人物であろう。そういう人物について400頁弱も書かれた本が現在どれくらい読まれるのだろうか(それに加えて大塚英志自身も「過去に書いたことだから」と議論を省略して読者を突き放してみたり、きちんと書いて親切にしてみたりとなんだかよくわからない距離感を持っている。この本はわりと親切な方だとは思うけれど)。

 とはいえ大塚英志のナラティブな語り口は相変わらずさすがで、スタバで時間を忘れて読み耽ってしまった。本人としても恩師に対する思い入れが深いのだろう。読みながら熱く滾るような感傷が流れていくのがわかる本だと思った。

(2017年 ★★★★★ 角川選書