ふろむだ / 人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている

 この著者のことはいっさい知らないのだが、たまたまネットで見かけて面白そうだなと思い買って読んだ。Amazonの入荷予定がけっこう先で、まあ書店に行けばあるだろ、くらいの気軽な気持ちで探しに行ったら驚くほど品薄で、数件ハシゴしてようやく見つけた。

 書店で見つけてパラパラめくりながら眺めた時に、ブログのような文体で「内容薄そうだな……」と思ってしまったのだが、実際に読み終えてみても感想はあまり変わらなかった。

 僕なりに要約すれば、人間は「思考の錯覚(認知バイアス)」に囚われており、その認知バイアスを事後的に記憶を書き変えることで合理化してしまうので、その「思考の錯覚」の隘路から逃れることができない。社会というのはそうした「思考の錯覚」を前提とする「錯覚資産」を使ったゲーム的戦場の様相を呈しているので、そうしたゲームのルールに無理やり逆らうのではなく、積極的にゲームボードに乗りいかにして「錯覚資産」を増やすかを考え、社会をサヴァイヴしていくべきだ、というような内容だと把握している。

 この辺のくだりは普通に面白いのだが、参考文献(やたら英語文献がピックアップされているのだが、これこそがまさに"威光"なのでは?)に挙げられている『ファスト&スロー』とか『明日の幸せを科学する』の方に当たればもっと根拠のあるしっかりとしたものが読めそうな気はする。そっち読んでないので断言はできないが。逆に読んでいないので普通に新鮮に読めたというのはあるし、『ファスト&スロー』読むか、みたいな気分になったところもある。

 この本の「錯覚資産」をうまく運用しよう、という主張は目新しさもあるしコマーシャルな提案で非常に良いと思うのだが、その具体的な運用となるとあまりにも抽象的で曖昧で薄味なので、その辺は本当にガッカリとしか言いようがなく残念ではある。人々にはこうした「思考の錯覚」があるのだ、というのを解きほぐすだけであればこの本ではなく、それこそ元ネタの『ファスト&スロー』とか、この手の啓蒙書を読めば良いという話になってしまうわけで、新奇性のある部分が掘り下げられていないのは残念だなあと感じざるを得なかった。

 とはいえ「錯覚資産」を積み上げて社会をサヴァイヴしていこう、というようなアジテーションはなかなか心をくすぐるものがあり、それだけで自己啓発書の役目としては充分果たされているのかもしれない。面白い本ではあるので、興味があれば読んでもいいと思う。わざわざ苦労して探す本ではないと思うけど。

 余談だがマジシャンやメンタリストはその自然な帰結として「錯覚資産」を意識して扱うことになる。このあたりのことは一般書籍であればBirdie『世の中で悪用されている心理テクニック』にも詳しい。より専門性の高いマジックやメンタリズム関連の文献を漁るとこのあたりの実際的な運用をより深く知ることができる。

(2018年 ダイヤモンド社 ★★★☆☆)