伴名練 / なめらかな世界と、その敵

 書店で装丁を見てたぶん面白いんだろうなと思って買ってみたが、やはり面白かった。こんなこと言いたくないのだがかつて大学の頃に夢中になって読んだ伊藤計劃と読後感がほとんど同じで、なんだかとても懐かしい気持ちになった。具体的に何が似ているのかと問われれば答えられないのだが。

 個人的にもっともよかったのは『美亜羽に贈る拳銃』。伊藤計劃の『ハーモニー』を読んだのなんてもう10年近く昔なのでどの辺がトリビュートなのだかさっぱりわからないのだが、ラブストーリーとして普通に面白く読んだ。

 表題作の『なめらかな世界と、その敵』はいきなりとっつきにくい描写が続くので少し面食らったのだが、物語が結末に収束していくにつれシンプル極まりないテーマであることが明らかになっていく。個人的には好きな物語なのだが『世界』の方は『なめらか』で、その前提を共有できない私たち、という設定は神経症的だなあと思ったのも確かで、若い頃は確かにそういう風に世界を見ていたような気がするが、しかし歳を取った今では実のところ世界の方も全くなめらかではないのだよなあとも思ってしまう。まあこれは青春の一回性を際立たせるためのギミックの話でしかないのでどうでもいいのだが。

 逆にまったく面白くなかったのは『ゼロ年代の臨界点』。冒頭から延々と"偽史"(実際の何かに基づいている?)をべらべらまくし立てられても全然理解する気になれず、ずっと目が文字の上を滑っていた。

(2019年 早川書房 ★★★★☆)